
『Mr. HIP NAMED HICKS』
もしくは、ダン・ヒックスについて日本で一番多く文字を費やしたページ。ダン・ヒックス。真珠湾攻撃直後の1941年12月9日、アーカンサス州生まれ。後にカリフォルニア州サンタ・ロサに移る。高校生時代には幾つかのバンドにドラマーとして参加。両親のラジオから流れてくるカントリィ/ウエスタンを聞いて育ち、やがてベニィ・グッドマンなどのスウィング・ジャズにも興味を持つ。1959年サン・フランシスコ州立大学に入学。この頃にはギターを持ってフォーク・ソングを歌うようになるが、再びドラムを叩きはじめ、伝説のバンド、シャーラタンズ(!)に参加。1968年、ダン・ヒックス&ヒズ・ホット・リックスとしてデビュー。1974年の解散までに4枚のアルバムを発表。メンバーの一人、女性ヴォーカリストのマリアン・プライス(元クロード・ソーンヒル楽団!!)は後にキンクスに参加。その後ダン・ヒックスは他人のアルバムへのゲスト出演や、いくつかのCMソングを手がけたりと、ソロで細々と活動。(アルコール中毒だった、ということを以前どこかで読んだ記憶があるが定かではない)長らく表立った活動が見られなかったが、1994年、待望の新作にしてライヴ・レコーディング“Shootin'
Straight”(On The Spot
01005-82118-2)をダン・ヒックス&ザ・アコースティック・ウォリアーズ名義で発表。現在もアメリカ国内で精力的にライヴを行っている。---以上が簡単なダン・ヒックスのこれまでの足跡である。
ピチカート・ファイヴ・ボックス(正式な名称はわからないが)というのをご存じだろうか? B5よりひとまわり小さな黒く薄い箱で、中にメンバーのお気に入りの映画や音楽などの書かれた何枚かのカードや、それまで行ってきたライヴの模様+ディスコグラフィ+写真などが一緒になった小冊子、キーワードとなるミュージシャンを紹介したリーフレットなどが入っている。その小冊子の中に田島貴男とダン・ヒックスが一緒に写っている写真がある。
ニック・デカロが1974年に発表した“ITALIAN
GRAFITI”。ここに収められている“CANNED
MUSIC”。私が初めて耳にしたダン・ヒックスの作品である。もちろん、初めて耳にしたのは1974年ではないのだが、、、。しかもこの曲がダン・ヒックスの作品だと知ったのはごく最近のことだ。それまではランディ・ニューマンの作品だと思い込んでいたのだ。ひとつ前の曲がランディ・ニューマンの“While
the City Sleeps”だったもので、、、。
ダン・ヒックスは何故ウエスタン・スウィングというか、ジャグ・ミュージックというか、そのようなスタイルの音楽にこだわるのか?シャーラタンズと言えばサイケデリック・ロックの先駆であり、ヴァージニア・シティのレッド・ドッグ・サルーンではじめての「ライト・ショウ」を行った「サマー・オヴ・ラヴ」の中心的バンドである。だからといって、グレイトフル・デッドやジェファーソン・エアプレイン、ヘイト・アシュベリィといったその時代の(自分が今まで気にもしなかった)キーワードをいちいち掘り起こす必要はない。答えは簡単。先にも書いたが、ダン・ヒックス本人がそのような音楽を好きだからだ。シャーラタンズの素晴しいコンピレーションCD“THE
AMAZING CHARLATANS”(BIG BEAT CDWIKD
138)を聞いてみよう。ダン・ヒックスの作品だけ雰囲気が違うのがわかる(更にこの時に書かれた殆どがホット・リックス時代のレパートリィになっている)。
1965年夏、レッド・ドッグ・サルーンでの六週間。店に住み込み、週六夜のライヴ。全員が“smoked
dope”。寂れたゴールド・ラッシュの町がカウンターカルチャーのスポットになる。ファミリィ・ドッグとビル・グレアム。週末のコンサート。フィルモア。アシッド・テスト。デッド、クリーム、マザーズ、ジミ・ヘンドリクス、B.B.キング。どんどん盛り上がっていく一方、ダン・ヒックスはアンプラグドになっていった。
彼を紹介する時、日本ではよく「ヒップスター」という言葉が使われる。小西康陽のコラムを集めた本『これは恋ではない』(幻冬舎)に於けるダン・ヒックスについての文章にしても同様である(この本の中にアルコール中毒の療養中、とある)。「ヒップ」とはどういうことなのか?日本人には理解するのが難しい言葉の一つだと思う(「クール」も然り)。
「ヒップ」となると「ビート・ジェネレイション」を避けて通れなくなる。要するにビートニクなのだ、この人は。ダン・ヒックスはタワー・レコード・サン・フランシスコ店開店30周年記念(1998年)のPULSE!
MAGAZINEでDIDS(デザート・アイランド・ディスク)の一枚にデル・クロウズ&ジョン・ブレントの“HOW
TO SPEAK HIP”を挙げている。(すでに知っていると思うが)“PET
SOUNDS”セッション時、“HANG ON TO YOUR
EGO”収録の冒頭でブライアン・ウイルソンが「“HOW TO SPEAK
HIP”というレコードを知っているかい?」と言っているのが聞ける。ライナーによると、作詞者のトニ・アッシャーがこのレコードを聞かせたところ、ブライアンは打ちのめされたという。(資料が手元にないので正確なことはわからないが)ブライアンは「(このレコードは)1959年に出た」と言っている。1959年はダン・ヒックスが大学に入学した年(因にJ.ケルアックの“ON
THE ROAD”は1957年出版)。
よく「ユニークな音楽スタイル」だとか、「ヴィンテージ・サウンド」だとか「ジャンゴ・ラインハルトとステファン・グラッペリの影響を受けた」などと彼の音楽は表現されるが、そんなバンドだったらほかにもあるだろう。男性4人に女性2人というホット・リックスの編成からセルジオ・メンデス&ブラジル'66を連想するかもしれない。しかしなにより特徴的なのは他ならぬダン・ヒックス本人の「ビート」性である。先のDIDSでは他にレニ・ブルース&ジャズボゥ・コリンズの“Interviews
of Our
Times”が最初に選ばれているし。そう、ユーモアもビートの要素だ。(私のつまらない英語力では殆ど理解できないが)独特のユーモア・センスに溢れた歌詞、ボケボケのMC。観客を笑いのどん底に突き落とし、何食わぬ顔で次の曲のカウントをとる。最新作でもこの雰囲気は健在である。
因にデル・クロウズ&ジョン・ブレントの二人は即興劇団「セカンド・シティ」出身。J.ベルーシやD.アイクロイドもこの劇団の出身である。ここで思い出されるのが(毎度のことでなんだが)「サタデイ・ナイト・ライヴ」だ。ダン・ヒックスのメイリング・リストに以前投稿されたものの中に、ホット・リックスの前座がスティーヴ・マーティンだった時があるというのがあった。もちろん70年代。真っ白のスリー・ピースを着て、頭を矢で打抜かれたように見える飾りを着け、バンジョウを弾きまくる男。「みんなが僕に尋ねるんだ、“ねぇ、スティーヴ”。」これだけで掴みはO.K.だ。バンドがもう2〜3年続いていたらNSLのミュージカル・ゲストになってたかも。
音について。ダン・ヒックス&ヒズ・ホット・リックスのデビューは1968年だが、ファースト・アルバムは1969年発表の“Original
Recordings”(EPIC)。その後、トミィ・リピューマらによって設立されたブルー・サムに移る。ここからの3枚のアルバムが彼等の活動のピークなのはいうまでもない。(その後解散)。
- “WHERE'S THE MONEY”(MCAD-31337)
- “STRIKING IT RICH”(MCAD-31187)
- “LAST TRAIN TO HICKSVILLE...THE HOME OF HAPPY
FEET”(MCAD-31188)
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MCAD-31337
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MCAD-31187
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MCAD-31188
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“WHERE'S THE MONEY”はライヴ盤。“Original
Recordings”後メンバー・チェンジを経てパーソネルは以下のようになる。
- Dan Hicks-vocal,guitar
- Maryann Price-vocal,percussion
- Naomi Ruth Eisenberg-vocal,percussion,2nd fiddle
- Sid Page-violin,mandolin
- Jaime Leopold-double bass
- John Girton-lead guitar,dobro(“STRIKING IT
RICH”以降加入)
- Bob Scott-drums(“LAST TRAIN TO
HICKSVILLE...”以降加入)
この他に1975年にレコーディングされ、1978年にリリースされた“It
Happened One
Bite”がある。ダン・ヒックスのソロ名義のこのアルバムは元々Ralph
Bakshiという人物が作ったアニメーションのサウンドトラック。アニメはお蔵入りとなったが、サントラだけが出た。内容はとても素晴しい。私が持っているのは英EDSELからの再発アナログ盤(ED177)。ダン・ヒックス本人もDIDSに選んでいる。
その後ダン・ヒックス名義のフル・アルバムは1994年まで待たなければならなかった。
- “Shootin' Straight” (On The Spot 01005-82118-2)
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On The Spot 01005-82118-2
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そしてダン・ヒックス&ヒズ・ホット・リックスのベスト盤。シー・フォア・マイルズから一枚出ているが、ダン本人が選曲しているこちらを。
- “Return To HICKSVILLE ” (HIPD-40053)
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HIPD-40053
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“WHERE'S THE
MONEY”は前にも言った通り、ライヴ・レコーディング。加えて、ギターがダン本人の弾くリズム・ギターのみなので、全体的にかなりざっくりとした、ソリッドな感じに仕上がっている。ハーモニィの美しさはちょっとした驚きだ。“NEWS
FROM UP THE STREET”や“CAUGHT IN THE
RAIN”などの不思議ななマイナー・ムードの曲調にはしっとりとした、吸い込まれるような魅力がある。リチャード・ブロウティガンを読んだような感じとでも言おうか。
ホット・リックス・ファンのほとんどがベストに挙げるであろうアルバムが“STRIKING
IT RICH”。何といっても、“WALKIN' ONE AND
ONLY”。これは超名曲。マリア・マルダーがアルバム“MARIA
MULDAUR”でカヴァした。デビュー前のオリジナル・ラヴもライヴのレパートリィにしていたとか。“CANNED
MUSIC”は揺らめく陽炎のようなイントロが美しい。コール&レスポンスも粋。“I'M
AN OLD
COWHAND”ではカントリィ+スティール・ギター+エンディングのコーラスのメイジャー・セヴンス=どう見たってニセモノのヤシの木ハワイアンという感じが最高。
このアルバムから加わったギタリスト、ジョン・ガートン作のインスト曲も魅力だ。“FLIGHT
OF THE FLY”や“PHILLY
RAG”はテレビ・ドラマ「大草原の小さな家」で撮影カメラがどんどん引いていって(信じられないことに)丘ひとつ向こうでは「スタートレック」がロケ中、といったようなアメリカ西部の荒野にあなたを置き去りにしていくに違いない。
“LAST TRAIN TO
HICKSVILLE...”はドラムが全面的に使われているので、これまでのスウィング感が希薄だ。“ヒップ”なバンドから普通のバンドになったような印象を受けるが、ユーモラスな“THE
EUPHONIUS WHALE”や軽いボッサの“IT'S NOT MY TIME TO
GO”、現在でもダン・ヒックスのライヴのレパートリィである“LONG COMMA
VIPER”などは聞くべきナンバーである。
“It Happened One
Bite”はダン・ヒックスのソロになっていて、“LAST TRAIN TO
HICKSVILLE...”の続編のような音に仕上がっている。(ホット・リックスのメンバーは勿論だが)スタジオ・ミュージシャンも起用し、ホット・リックス時代にはなかったメロウな雰囲気を醸し出している、、、などと書いているときりがない。
とにかく、一度聞いてもらいたい。先にも書いたベスト盤(HIPD-40053)の(歌っているマリアン・プライスの)“I'M
AN OLD COWHAND”に於けるカウントと演奏の始まる瞬間を、最新作(On The
Spot 01005-82118-2)収録の“HELL, I'D
GO!”のコーラスのユーモラスさを、そのエンディングの素晴しさを、タイトル曲でのセヴンス・コードの上にのびていくヴォーカルを、“BARSTOOL
BOOGIE”でのファルセットを、曲間のMCを、そしてそのすべてを。
他にも紹介したいことが幾つかあるが、私のコンピュータの問題で、ファイルを失ってしまったものもある。例えばサン・フランシスコ・クロニクル紙のコラムニスト、Leah
Garchik女史がダン・ヒックスに「ランチをおごる」という条件でインタヴューをした“Ululations
from A
Yodelologist”というコラム。メイリング・リストに寄せられた「初めてハンティントン・ビーチで見たダン・ヒックス&ヒズ・ホット・リックスの印象」という美しく、ユーモラスで、感動的な内容のメイルの全訳も紹介できないのが残念だ。
続々と新しい情報が入ってくる(元メンバーのマリアン・プライスもリスト・メンバーだ)。リーヴァイスやビックのCMソングを手がけていたこと、テレビ番組『セサミ・ストリート』で、レター“O”の時の音楽が彼だということ、ごく最近、ヴァン・ダイク・パークスの前座で“SWING
FIX”なるバンドで登場したことなど。
もし、彼等の作品が日本盤で発売される時には是非、歌詞の日本語訳を付けていただきたい。それも戸田奈津子や、石田泰子といった人達にやってもらえるととてもうれしいのだが。
ダン・ヒックスは現在も精力的にライヴを行っている。そしてこう歌うのだ、“...It's
never too late to be up to date”と。Yes,Play It LOUD!!!
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