『山下達郎ライヴ・リポート』


  10月23日、大阪フェスティヴァル・ホールで山下達郎のライヴ、『Performance1998-1999』を観た。約7年振りにニュー・アルバムが出たので、それに合わせてのコンサート・ツアーなのだが、最新作『COZY』からの曲はほとんど演奏していない。「ライヴのことを何も考えて作ってない」と本人も言っているし、8月にアルバムが出て10月からツアーが始まるという、時間的な制約もあったのかもしれない。それに7年という長いブランク。正しく「リハビリ・ライヴ」という感じで、そういう状況のなか、新作からの曲を何事もなかったように完璧に演奏するよりも、手慣れた曲、ファンに馴染みの曲、幾つかの本人がやりたいと思う曲でステージを構成したことは正しい選択だといえる。客席にいた我々にとっても「リハビリ」な訳だし。双方の意思確認、あるいは山下達郎のファンへの誠意とでも言うべきか。曲が終わって拍手の度に、「ありがとうございます。」と丁寧に言っていたのが印象的だった。

  下達郎のライヴは今までにも何度か見たことがあるが、最前列でというのは今回が初めてだった。ステージに現われたときの、その決して穏やかとはいえない彼の表情を見て少し驚いた。1曲目は「スパークル」。まさにステージの「カン」を取り戻すかのように、手探りしながらギターを弾いているように見えた。同時にそれはプロとしての顔だったと思う。彼が満面の笑みを浮かべ、観客の歓声に答えるように、両手を高く上げて登場するような人ではないと分かってはいたものの、これほどまでにオープニングのピリピリした緊張を感じたのは今回が初めてだった。少なくとも僕はそう感じたのだ。

  筆すべきは、と言うほどでもないが、今回のライヴはコーラスが良かったと思う。山下達郎のライヴの最大の弱点はコーラス隊である。過去にも、大貫妙子、竹内まりや、エポ、村田和人、佐藤竹善など、ソロ・ヴォーカリストとしても活躍している面々が起用されているが、元々殆どのコーラスは本人の多重なので、レコードと全く同じに再現するのは不可能なのだ。その点、今回の佐々木久美、国分友里恵、三谷泰弘の三人は今までになかった厚みのあるコーラスを聞かせてくれた。因みに「クリスマス・イヴ」のア・カペラの部分はテープで(これは毎度のことだが)、イントロのギターのパートもテープ、もしくはシンセかも、ってそんな細かいことはどうでもいいですけど。

  白いなと思ったのは、彼のステージ上でのアクション、動きである。ギターを弾いている時、あの独特のネバっこい、それでいてシャープなカッティングの右手のストローク、親指で5弦までも押さえてしまう左手のコード・フォームの美しいこと! ア・カペラなどを歌う時の腕や指の妙にシャープな動き。このことと、英語の発音に意識的なヴォーカルであることとは決して無関係ではないと思う。そして、例えば歌詞に「抱きしめて〜」とあった場合(あくまでも「例えば」の話)、ギターを弾くのをやめてまでして「抱きしめる」仕草をしてみせたりする、視覚的な表現。あの山下達郎がだよ。歌謡曲のエンターテインメント性とカウンターとしての「ニュー・ミュージック」(とかつて我々が呼んでいたもの)の絶妙のバランスでの同居とでも言おうか。殆ど映画『ブルース・ブラザース』のA.フランクリン状態。振り付けの先生がいたりして。まさかね。

  メリィゴーラウンド」という曲があって、ライヴでも演奏したのだが、その中の「〜駆け出すと」という歌詞のちょっと崩した歌い方に、異様にグっときてしまった。山下流の怒ファンクながら、歌詞の世界はブラッドベリの「黒い観覧車」に直結しているようなこの曲。しかしその崩した歌い方を聞いて見えたのはブラッドベリなどではなく、日本の、東京の下町の路地裏。「路地裏の少年」なんですね、このおやじは。

  回「蒼氓」という曲の途中で、岡林信康の曲だという「私たちの望むものは生きる苦しみではなく、私たちの望むものは生きる喜びなのだ」という一節を歌ったのには驚いた。そしてお馴染み「ピープル・ゲット・レディ」。この曲の「You just thank the Lord」というフレーズを最後に何度か繰り返し歌ってしまうそのセンス。殆ど映画『ブルース・ブラザース』のJ.B.状態。汝、光を見たか?カッコ良すぎ。

  ンサート・リポートの場合、演奏曲目を全部リスト・アップしている人がいますが、あれは信じられない。というか、僕には出来ない。オープニングのア・カペラのテープで泣き、「蒼氓」でも泣いてしまって、「レッツ・ダンス・ベイビィ」の楽観的、祝祭的ムードにも涙してしまう僕には、メモをとる余裕などあるはずがない。まるでオマケのような「ドーナツ・ソング」でさえ、あの声で歌われると、何かとても重大な歴史的瞬間に立ち合っているような気になってしまうのだから。

  イヴ・アルバム『JOY』のプロモーション用のヴィデオが存在するという。僕はそれがオークションのリストにあるのを見たことがある。だれかが今夜もそのヴィデオを観ているのだ。実際ライヴ映像はかなり撮っているらしく、デジタルに変換する作業も進行していると聞く。だったら早く見せて欲しい。やたらと山下達郎を仰ぎ奉る僕やあなたの目を覚まさせる為にも。コンサートというものは楽しいものだ。やたらと泣いたり、ファルセットの度に神妙な顔つきになるのもいいけど、そろそろ別の接し方を探したい。「7年振り!」とかではなく、ごく日常の一部としてのカジュアルな接し方を。「芸人」山下達郎を正当に評価するためにも是非、ライヴ・ヴィデオを。関係者の方々、お願いします。

  いっても、コンサートというのは非日常の世界。たとえこの先何本ヴィデオが出ようとも、実際コンサート会場に居たなら、それが最前列であろうが立ち見であろうが、僕は泣くだろう。いい歳こいて。



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